Project story #03

「株式会社の根幹を支える事業」にJoin

  • #証券代行

取引先との株式の持ち合いを解消する動きが進むなかで、「物言う株主」の存在感が以前にも増して高まっています。株主の声をきっかけに、コーポレートガバナンスを見直すことで企業価値を高める姿勢が、株式会社に求められるようになっています。いま、1企業につき1社専属で、永続的に企業に伴走する「証券代行業務」は、まさに株式会社の根幹を支える大切な業務です。

どのようなプロジェクトに取り組んだか

企業と株主の間に立ち、
株主の声を企業価値向上につなげる

Project Member

市河 伸夫

JSS研究開発
コンサルティング部 出向
1992年入社
経済学部卒

伊藤 幸司

三菱UFJモルガン・
スタンレー証券 出向
1998年入社
経営学部卒

坪井 佑貴

証券代行営業第1部
2013年入社
法学部卒

Cross Talk

「物言う株主」の声に企業と共に向き合う仕事

信託銀行は証券代行機関として、上場企業の株主名簿の管理や株主総会の運営全般のサポートを行っていますが、具体的な業務内容を教えてください。

坪井上場会社は信託銀行などの証券代行機関に、株主名簿の管理を委託することが、証券取引所のルールで義務付けられています。そのため、私たちは専属契約をいただいている企業の株主様の情報をすべて保有し、その情報に基づいて配当金のお支払いや、株主総会通知の発送といった株式実務対応、株式会社の最高意思決定機関である株主総会の運営サポート、またそれに関連して株主とのエンゲージメントやコーポレートガバナンス強化に向けた支援、サステナビリティ対応サポートなど、株式会社が存続し企業価値を上げるために不可欠な業務を請け負っています。

伊藤証券代行の業務は一般の銀行や証券会社では行っておらず、私たち信託銀行をはじめ、特定の企業しか請け負うことができません。そのため信託銀行ならではの業務の一つといえます。

市河株主名簿の管理や株主総会の運営と聞くと、事務作業がメインのように思われるかもしれません。しかし実際は、企業の経営責任者と共に、アクティビスト(一定以上の株式を保有したうえで、投資先企業へ企業価値向上のための提言を積極的に行う投資家)やマーケットの声に耳を傾けつつ、コーポレートガバナンスの在り方を検討する大変重要な業務です。そのため株主の声が大きくなればなるほど、私たちの業務内容もその重要度が増すといえるでしょう。

伊藤アクティビストは企業経営層に対して直接、積極的な提案を行うため、しばしば「物言う株主」と称されます。そしてその声は企業経営において無視できない大きな声となってきているのです。

アクティビストの提案や要求に対して適切な対応を検討することが、重要になってきた背景を教えてください。

市河90年代は、金融機関や企業間同士の持ち合いが、発行株主の大部分を占めていました。そのため、株主総会において、反対の意見が上がることはあまりありませんでした。ところが、2002年、小泉政権による構造改革により、企業間の持ち合いがメインだった株式保有の在り方が次第に変化し、機関投資家や個人投資家の株式保有の比率が大きく上昇しました。そうしたなかで、アクティビストによる積極的な提案が増えてきたわけです。

伊藤以前は、株主自身の利益を最大化したり、経営を優位に進めたりするために、多数の株を買い占め、その存在感や影響力を示していました。ところが近年は、株保有の比率が少なくても、多数の株主の賛同を得ることで、企業と対峙するという方法が主流になってきています。そこで、アクティビストはメディア戦略などを駆使して、他の株主の賛同を得るような発信を行うことで、企業にとって大きな影響力を持つようになりました。

株主の声は経営を見つめ直す貴重な機会

実際に、アクティビストが声を上げた際、皆さんは企業に対してどのような業務を行うのでしょうか。

坪井実際に私たちが担当した事例を紹介します。
企業の発行する株式の5%超を保有した場合、その所有者は保有状況を開示するというルールがあるのですが、数年前、私たちの取引先企業(以降A社)において、突然そうした株主の開示がありました。その株主からは、株主名簿の閲覧要求や、企業価値向上のために経営者のサポートを行いたいといった申し出がありました。最終的には15%の株式を保有し、筆頭株主に躍り出ました。A社は、この株主との面談を1年ほど定期的に行いましたが、非上場化して自由な経営を行うことで株価を維持し、企業価値を上げることが、多くのステークホルダーのメリットにつながるのでは、というのがその株主からの最終的な提案でした。これには非上場化への移行の際、株を買い取ってほしいという、もう一つの狙いがあったと思いますが、そうした株主の本音を見つけ出すことも私たちの役割だと思います。私は営業担当者として、A社の管理部門のトップであるCFO(最高財務責任者)と共に、対応策について検討を重ねました。

伊藤最近では、アクティビストは自分だけの利益を要求するのではなく、あくまで他の大多数の株主の賛同を得られる提案を行うことが主流です。その際ポイントとなるのが、コーポレートガバナンス・コードです。上場企業がここで定められている内容を履行できていない場合、株主の要求には正当性があると判断されます。そうなると、株主の声を無視するわけにはいきません。こうしたアクティビストの声は、自社のコーポレートガバナンスを見つめ直す良い機会になるため、企業としても真摯に対応し、会社の信用を失わないよう努める必要があるのです。そのため私たちコンサルタントは、コーポレートガバナンスを一つの指標とし、営業担当者を通して対策の助言をします。

市河私たちのような証券代行機関は、マーケットの平均的な声、期待値を的確に企業に伝えることが大切です。現在の経営状態について客観的な評価を行い、株主に対してどのように報告するのかといったことを継続的に企業と対話しています。

坪井A社としても当然独自の考えや方針があったため、要求を即座に受け入れるわけにはいきませんでした。私たちも改めてコーポレートガバナンスを見直して、強化すべきところは強化したり、対外的な情報開示などについても再検討したりするようアドバイスを行いながら、要求への対応について対話を続けていましたが、最終的に当該のアクティビストは株式を売却してエグジットする形に落ち着きました。

株主が多様化し、重要度を増す証券代行業務

証券代行業務は、企業にどのような価値を提供できるのでしょうか。

坪井信託銀行の業務は長期のお付き合いであることが特徴です。A社の場合も、ベースに証券代行の契約があり、その契約には期限が定められていないため、具体的な課題だけを期間限定で取り扱うということではなく、末永くリスクにも共に向き合っていくという姿勢が求められます。

市河目の前の収益にとらわれず、永続的なお付き合いをするためには、企業側のキーマンに寄り添い、良好な関係を築いていくことが大切です。坪井さんが、私たちのような営業担当者のサポートを行うコンサルタントらに対して、お客さまの課題を迅速に共有し、必要なタイミングでアドバイスを受け取れるよう日頃から心がけてくれていたことが、A社を良い方向に導いたのだと思います。

伊藤株式上場には、広く資金調達が可能となるというメリットがあります。また、人材不足が問題となっている現在、人材獲得という意味でも、上場により知名度や信用力を上げることは大きなアドバンテージとなります。一方、上場企業は上場している現状に対して、本当にこれで良いのかを自問自答するタイミングも必要です。そのきっかけの一つが株主からの声です。

坪井A社のケースで、アクティビストから非上場化したらどうかという提案があった際、まさにそうした議論を行いました。それまで上場を維持することが当たり前だったわけですが、原点に立ち返り、上場を維持することが本当に正しいのか、という議論ができたことは良かったとお客さまから伺っています。結果的には上場を維持すべきという結論に達しましたが、それを機に改めてコーポレートガバナンスを再構築できたことも大きなメリットだと感じていただけました。

最後に、証券代行業務のやりがいや今後の目標について教えてください。

伊藤証券代行に限らず、信託銀行の業務はお客さまに長く向き合うなかで、さまざまな課題を共有していただくのですが、それに対して回答を用意するために自分で調査することはもちろんのこと、先人の知恵を借りると言いますか、社内の専門部署などからもヒアリングを行います。私はこの証券代行という業務に魅力を感じて志し、不安ながらも先輩や人事担当者の後押しがあって、法律や会社法を一から学ぶところからスタートしたのですが、分からないことは年次や役職を問わず気軽に聞ける文化がこの会社にはあるので、若い人もチャレンジしやすい環境だと思います。今はグループ内の証券会社に出向しており、この業務を通じて専門性を高めることができたと実感しています。

坪井上場企業を全般的にサポートしているため、企業の最高財務責任者や管理部門の責任者の立場にある方と若いうちからコミュニケーションを取れることは、自分自身を高めるうえで貴重な機会だと思っています。これからさらに経験を積み、そうした方から対等な視点で信頼されるような人材になりたいと思っています。

市河今はスマホで手軽に株が買える時代です。そうしたことが常識な新しい世代の株主が増えてくることも間違いないでしょう。また、私たちが運営する株主総会も大きくカタチを変えていくと見ています。こうした変化をキャッチアップしていかなければなりませんが、それはとてもチャレンジングな仕事になると思っています。