Project story #04
「重要度が高まるサステナブル投資を加速する事業」にJoin
信託銀行では、企業年金制度の整備や運用・管理に加え、資産運用・資産管理業務を行っており、こうした業務を受託財産業務と呼んでいます。近年、その資産運用に関してキーワードとなっているのが「サステナブル投資」です。本邦最大級の運用機関である三菱UFJ信託銀行(MUTB)が、機関投資家として果たす役割もいっそう重要度を増しています。
どのようなプロジェクトに取り組んだか
資産運用機関として、企業・機関投資家・社会の
「三方良し」となるよう、積極的な働きかけを行う
Project Member
川嵜 渉
アセットマネジメント事業部
2022年入社
開発学部卒
小原 翔太
資産運用部
2013年入社
経営学部卒
鯵坂 麻那
アセットマネジメント事業部
2017年入社
文学部卒
Cross Talk
環境、社会、ガバナンスを軸に企業と対話する仕事
信託銀行は、どのような仕組みで資産運用されているのでしょうか。サステナブル投資という言葉もよく耳にするようになりました。
鯵坂信託とは、委託者が所有する財産を、受益者のために専門家(受託者)に託し、運用・管理を任せる枠組みです。資産運用とは、この枠組みの中で委託者からお預かりした資産を、委託者のニーズに合わせて運用し、受益者に還元するという業務のことをいいます。こうした運用を行う中で、近年関心が高まっているのがサステナブル投資です。日本は欧米諸国と比べると関心は高くないのですが、いずれはそうした国々と同等のレベルにまで関心や必要性が高まってくると考えています。
川嵜サステナブル投資は、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)= ESG※1などの課題や要素を取り入れ、投資対象のサステナビリティを考慮する投資です。2000年に開かれた国連ミレニアム・サミットで承認された「ミレニアム宣言」を達成するためのMDGs(ミレニアム開発目標)の後、2015年に「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が国際連合で採択され、最近さまざまな場面で聞かれるようになったSDGs(持続可能な開発目標)が生まれました。これをきっかけにESG課題だけではなくサステナビリティ領域における企業と投資家の責任がますます重視されるようになってきています。
小原私たちはお客さまから資金をお預かりして資産運用を行う受託者であり、その資金を投じる企業に対しては、投資家として接する立場にあります。私たちは、お客さまからお預かりした資金を運用するうえで、昨今のサステナビリティに関する潮流を踏まえ、投資先企業に対して少なくとも3つのアプローチが必要だと考えています。1つ目は、資産運用自体にサステナビリティの要素を組み込んでいくこと。2つ目は、投資先企業にエンゲージメント※2を通して、サステナビリティの取り組みの改善を促すこと。3つ目は、議決権行使※3によって意思表示をしていくということです。 例えば、自動車メーカーを例に挙げると、気候変動への対応として、ガソリン車からEV(電気自動車)へのシフトが求められています。そこでまずは資産運用の戦略を検討する際、従来の財務分析に加えて、当該企業の開発過程や供給可能性など、非財務情報であるサステナビリティの要素に対するアナリストの評価を組み込んでいきます。次に、競合他社の事例を紹介しつつ、ガソリン車からEVへのシフトを加速するための働きかけをしていきます。こうした働きかけを、エンゲージメントと呼んでいます。そして最後に、経営陣に直接的な意思表示ができる手段として非常に有効な議決権を行使します。こうしたアプローチをうまく活用しながら、社会課題の解決に向けて取り組んでいくことが、信託銀行や投資家に求められています。
- ※1 ESG:環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取って作られた言葉。2006年に当時の国連事務総長が「責任投資原則(PRI)」を定め、環境、社会、ガバナンスという3つの領域において、「民間企業も世界規模の社会課題解決に貢献できるのではないか」という期待が込められた、投資家が投資先を選ぶ際の指標。
- ※2エンゲージメント:投資先企業の企業価値の向上や持続的成長を促すことにより、顧客・受益者の中長期的な投資リターンの拡大を図ることを目的として行う対話のことをいう。
- ※3議決権行使:投資先企業に対して、株主として株主総会で議案に対する賛否を投票すること。例えば、取締役の選解任などの会社機関に関する議案について賛否を投票するなど。
世界の投資家と共にエンゲージメントを行う
サステナビリティを考慮し、適切な投資判断をするために、投資先企業に対しどのようなエンゲージメントを行っているのですか。
川嵜私は数カ月前まで国際連合に籍を置き、アフガニスタンやケニアなど海外のさまざまな地域で働いていましたが、SDGsなどのグローバルアジェンダにおいて、目標達成に近づくには、民間企業とのパートナーシップの構築と企業からの貢献が不可欠だと気付き、MUTBに転職をしたという経緯があります。社会課題の解決には、ファイナンシング、テクノロジーやイノベーションという側面も重要で、ここを補えるのはまさに民間企業です。そのため、MUTBの役割もいっそう重要になってきているのです。
小原投資先企業に対してより有効なエンゲージメントを行うために、「CA100+」などのイニシアティブ※4に参加しています。CA100+は「Climate Action 100+」の略で、パリ協定※5に基づく気候変動抑制に向け、温室効果ガス排出量が多い企業に対して、削減を実現するための提言を行う、世界最大の投資家イニシアティブです。このイニシアティブでは企業1社に対して、世界中の投資家が複数社で協働してエンゲージメント活動を行います。また、参加する投資家の大半は海外の投資家であり、各国の投資家が知見を集結することで、より大きな影響力を発揮できると考えています。当社は、その中で、エンゲージメント対象である日本企業2社に対する、リードインベスターとしての役割を担っています。エンゲージメント計画の策定から企業とのエンゲージメント、報告までを主導し、各投資家をリードする立場にあります。
- ※4イニシアティブ:社会課題の解決に向けて、企業に対し、複数の投資家が協働して解決を促す取り組み。
- ※5パリ協定:「世界の平均気温上昇を産業革命以前と比べて2度より十分低く保ち、1.5度以内に抑える努力をする」という世界共通の長期目標。
鯵坂複数の投資家が協力して企業に働きかけることで、1社で行うよりも大きな影響を与えられるだけでなく、グローバルな視点を踏まえた多面的な意見を企業に伝えられるので、効果的に世界の気候変動抑制に向けて取り組むことができると考えております。
川嵜エンゲージメントが重要と説明しましたが、現在ロンドンに本社を置く、エンゲージメントのプロフェッショナルである「Arkadiko Partners」社に助言をもらい、サステナブル投資のためのエンゲージメントをさらに強化する体制を構築しています。
今回は「Arkadiko Partners」社の現地ご担当者にも協力いただき、今後の日本でのサステナブル投資の拡大とArkadiko Partners様の役割についてお聞きしました。
Arkadiko Partners日本でもサステナブル投資への注目が高まる中、多くのアセットマネジャーは、効果的にスチュワードシップ※6を実施し、サステナブル投資を推進するという点で、欧米の多くの同業他社より後れをとっています。 そこで、戦略・経営コンサルティング会社であるArkadiko Partnersは、サステナブル投資のエンゲージメント体制構築についてアドバイスし、国内外の投資先企業との効果的かつ建設的なエンゲージメントを通じて、社会課題の解決を目指す企業の最適化を図るサポートをしています。
- ※6スチュワードシップ:投資先企業とエンゲージメントなどを通じて信頼関係を構築し、企業価値の向上や持続的成長を促すことで、中長期的な投資リターンの拡大を図る責任。
企業に寄り添い対話することで企業価値を高める
エンゲージメントの重要性について、よくわかりました。投資先企業に対するエンゲージメントは、どのような観点で行っているのでしょうか。
小原エンゲージメントには大きく分けて2つの観点があると考えています。1つは情報開示を促すこと。もう1つは、実際の取り組み自体を促すことです。なぜ情報開示の促進が重要かといいますと、日本の企業はどこか奥ゆかしいところがあり、実態として取り組みが進んでいるのは当たり前のことだからと開示を控えているケースが多いのです。これでは、取り組みが評価されず、株価にも反映されません。まだ道半ばであっても評価につながるよう、しっかりと開示していただくことがファーストステップだと思っています。私たちが企業と一緒になって同じ方向を向いて企業価値を高めるためにはどうするべきか?と真剣に考えて、働きかけていくことが重要と考えています。
鯵坂私はサステナブル投資にかかわる仕事についてまだ1年半ほどのため、日々勉強中なのですが、Arkadiko Partnersとのミーティングや、さまざまなイニシアティブに集う企業との会合を通して、エンゲージメントについてのベストプラクティスなどを学ぶ機会に恵まれています。さらに国内だけではなく、海外の投資家とディスカッションする機会もあり、非常に刺激的な毎日を送っています。社内の異動で転職のような変化を体験できるので、あらゆる環境で多くの専門性を吸収し、自分をアップデートしていくことの大切さを感じています。
川嵜SDGsの達成に不可欠な要素の一つとしてファイナンシングがあると申し上げましたが、信託銀行は、企業からお預かりした資金を運用することで、社会課題の解決に貢献できるという側面があります。とりわけMUTBは、グローバルな視点でこうした地球規模の課題解決にチャレンジしていると私の目に映りました。高校卒業後、日本を出て世界各地で学び、働いてきた経験を、これからは日本に還元したいという想いを果たしていきたいと思います。
専門性が高い仕事ですが、それに携わる中で知識や経験を積み、さらには他の業務にも活かせそうですね。
小原信託銀行の業務は幅広いため、自分自身のやりたいことが、仕事を通して見えてくるという側面があります。私は、新卒で入社後、長野支店で個人のお客さま向けの投資商品を扱っていたのですが、投資商品や運用に関する知識をつける中で、自分も運用のフロント部署で業務をしてみたいと考えるようになり、ジョブチャレンジという制度を活用して、受託財産業務に携わるようになりました。また、MUTBには社員の新しい挑戦をサポートしてくれる面があるので、チームのメンバーと共に「インパクト投資ファンド」という、企業成長と社会価値創造の両立ができる企業に投資するファンドを立ち上げ、金銭的な投資リターンの獲得に加えて、社会的な課題解決も同時に達成することを目指し、日々チャレンジしているところです。
川嵜国際連合という場所にいた経験も踏まえて、これから働く人たちに意識してほしいことが2つあります。1つ目は専門性を磨き、自分ができること、やっていきたいことをしっかり認識することです。それが定まってようやく、自分は何をすべきか、自分に必要な勉強は何か、スキルは何か、ということが見えてくるからです。 2つ目は「自分はほかの人とは違うのだと理解する」ことです。グローバルな環境で働くうえで、自分は目の前の相手と違うと認識し、自分自身の考えや意見を出す。そうした姿勢が大切になってきます。 みんなが同じ方向を見ていても、これから更に多様化・複雑化する社会課題は解決できません。また、グローバルな舞台で働くということは、海外での勤務だけを指す訳ではありません。日本にもその舞台はあるのです。こうした意味でも、多角的な視点を持ち、さまざまな業務を通して専門性を養ったチームが果たせる役割は、今後ますます大きくなっていくと思います。私たちも、皆さんと一緒に、その一員として貢献していけたらと思います。