Project story #05
「信託業務×デジタルで新たなビジネス」にJoin
企業はSDGsを掲げ、社会課題へ取り組むと同時に、市場の縮小や、新たなニーズ拡大への対応として、大きな変化を求められています。企業から大切な資産を託され、運用して企業価値を高めるために尽力する信託銀行も例外ではありません。信託銀行の業務から見える社会課題に挑むため、これまでの業務で培ったノウハウとデジタルを活用した二つの取り組みを紹介します。
どのようなプロジェクトに取り組んだか
信託銀行の業務から見える社会課題に
デジタル技術を活かした新ビジネスで挑む
Project Member
久保 昂史
法人コンサルティング部
2012年入社
農学部卒
森本 麻里絵
法人コンサルティング部
2011年入社
経済学部卒
中村 圭佑
デジタル企画部
2011年入社
政治経済学部卒
阿藤 智輝
デジタル企画部
2017年入社
商学部卒
Cross Talk
情報銀行サービス「Dprime」をローンチ
今回は、このプロジェクトの共創メンバーである、株式会社ライヴスの金谷さん(写真左)にもご参加いただきます。
金谷よろしくお願いいたします。私の所属するライヴスは、コンサルティングやマーケティングを通して地域活性化の実現を支援する会社で、「Dprime」のプロジェクトでは主に開発・制作面で携わっています。
その「Dprime」はどのようなサービスなのでしょうか。
久保「Dprime」は、個人の明示的な同意に基づいてお預かりしたパーソナルデータを、MUTB基準の厳正な審査を通過した企業に活用していただくことで、利用者が各々にマッチした商品やサービス、体験を受け取ることができるアプリです。パーソナルデータは、これまでも一部の巨大IT企業がほぼ独占的に利用してきましたが、データを提供する側の個人にとっては、どのように利用されているのかが不透明で、不安があったかと思います。一方「Dprime」は、自らの意思で登録したパーソナルデータのうち、どういった項目をどのような企業に提供するかを選択できるのが特徴です。パーソナルデータといっても、個人が特定されない形での提供になり、プライバシーも守られるため安心です。
森本MUTBは、家族にすら開示できない大切な遺言や、株主名簿、年金加入者などの個人データを、これまでも厳格なセキュリティ環境で管理してきたため、パーソナルデータを管理・運用する情報銀行として、安心してデータを預けていただけるという強みもあります。まさに“信じて託していただく”という、信託銀行がこれまでの業務で培ってきたノウハウやリテラシーが活かされているサービスといえます。
「Dprime」は企業や個人にどのような価値をもたらすのでしょうか。
久保「Dprime」は、貴重なパーソナルデータを活用して企業のマーケティングやイノベーションなどを応援しています。この取り組みに多くの方に参加いただきたいと考え、社会課題の解決に取り組む企業と「Dprime Lab」という共創プロジェクトを行っています。その一つがパーソナルデータを日本の伝統技術に活かす試みで、ライヴス様が運営する「TSUKURIBA(ツクリバ)」というサービスとのコラボレーションです。
金谷「TSUKURIBA」は、全国の職人と利用者をつなぎ、日本の伝統技術を凝らしたオリジナルの商品をオーダーメイドで開発できるプラットフォームです。日本には素晴らしい技術や伝統がありながらも、高齢化や後継者不足といった問題から、こうした魅力を次の世代につないで残すことが難しくなっているという大きな課題を抱えています。そうしたなか、MUTB様から本プロジェクトの趣旨をお聞きし、興味深い取り組みだと共感してコラボレーションが実現しました。
企業と個人の新たな関係を生む「Dprime」
久保具体的には「TSUKURIBA」に参加する4つの伝統工芸の職人の方々と一緒に、パーソナルデータを活かし、飲み物に最適な器の開発を目指すプロジェクトです。最初のフェーズであるアンケートの回答では千数百人の方から、性別や年代、家族構成といった属性情報に加え、具体的な器へのご要望といったパーソナルデータが集まりました。それを分析したうえで職人の皆さんに共有し、試作に取り組んでいただいています。
TSUKURIBA×Dprimeの取り組みはこちら
硝子メーカーの一つである廣田硝子に、コーヒーカップの制作を依頼。
金谷本プロジェクトについては、参加する職人の皆さんも大変期待しています。普段のものづくりでは、なかなか消費者から直接声を聞く機会がないため、実際にどのようなニーズがあるのか、どのような方が購入しているのかという部分が見えづらいのが現状です。そのため、集まったパーソナルデータから、マーケットの生の声に応じる形でものづくりを行うというコンセプトに興味を持ってくれています。ビール、日本酒、お茶、コーヒーのそれぞれに合う器を試作するのですが、実際にパーソナルデータを見ると、お茶は年配の方に好まれると思っていたのですが、実は若い女性に人気だったりと、興味深い結果でした。その結果を受けて若い女性に好まれそうなデザインで制作するなど、よりニーズにあった提案ができるように商品をつくることが可能になったのではないかと感じています。
森本新たな価値との出会いという意味では、お客さまが「Dprime」を通してこれまでとは違うユーザーと出会う機会を創出できると考えています。実際にお客さまからは、マーケティングの領域においても信託銀行が支援を行うこと、そのソリューションとして「Dprime」を提供していることについて、評価の声をいただいています。これまでも信託銀行はたくさんのソリューションを企業に提供してきましたが、このチャレンジを経て一つ引き出しが増えたことで、今後も新たな提案ができる可能性を見出しました。また、データを提供する側にとっても、目に見える対価の他に、自分が好きな企業に自分の声が届き、それが新サービスや商品になっていく過程に参加している実感を、ワクワク感と共に楽しんでいただけるのではないかと期待しています。
投資機会の拡大に寄与する「Progmat(プログマ)」
「Progmat(プログマ)」はどのような背景から生まれたのでしょうか。
阿藤近年、社会の動きが貯蓄から投資へシフトしつつあります。老後の生活資金への不安も手伝い、投資への関心が徐々に高まっている状況です。投資する人が増えると、おのずと投資対象も増え、取引にかかわる事務処理も膨大となることが予想されます。その際、上場している投資対象であれば、すでに日々の取引の仕組みが確立されているため、こうした事務処理も大きな問題とはなりません。そのため、私たちが今後フォーカスすべき投資対象は、上場することが難しい比較的小さな規模の資産や今まで個人投資家が投資対象にできなかった資産ということになります。
中村上場していない資産を、証券化して投資家に届ける。あるいは、個人が投資しやすいように、小口化して小額投資が可能な仕組みを作ろうとすると、その裏で事務作業が煩雑となり、大きく作業量が増えます。事務作業量が増えるとそれに対応するためのコストが生じ、投資家利益の縮小や、そもそもその商品の提供ができないということが想定され、社会課題の一つになっています。
阿藤こうした課題を解決できないかと、社内にプロジェクトチームが立ち上がり実現したのが、「Progmat」というプラットフォームです。「Progmat」では、ブロックチェーン(分散型台帳技術)と、私たちが本来の業務で携わってきた信託機能の活用により、証券そのものを「セキュリティトークン」としてデジタル発行することで、証券の小口化・少額単位化を可能とします。さまざまな分野で市場が先細るなか、資金調達者と投資家の双方にとって大きなメリットとなり、投資の裾野を拡大するソリューションとして注目されています。
中村こうしたビジネスをMUTBが手掛ける意義ですが、単にブロックチェーンという技術を使ったサービスを立ち上げたということにとどまりません。信託銀行として、お客さまの財産を受託することや、投資商品を提供してきた経験・知識を活用し、プラットフォームからその上で流通する投資商品までをワンストップで提供できるという優位性にあると思っています。もともとこのプロジェクトにおいては社会課題の解決という使命もあります。そのため、「Progmat」をMUTBのみが独占使用するのではなく、信託業界における標準のインフラとして機能させるために、企業や業界の垣根を越えて、大手信託銀行3社と三井住友フィナンシャルグループ、SBI PTSホールディングス、JPX総研、NTTデータの全7社による合弁会社を設立し、一層充実させていく予定です。
社会課題と企業成長に同時に取り組む
「Progmat」はこれまでの投資スタイルをどのように変化させますか。
中村「Progmat」を使うと、資金調達の手段が多様化して、多数の個人とつながることができるようになります。そのため、資金調達をしながらマーケティングにも同時に取り組めるというメリットがあります。出資者に対するインセンティブの権利や機能を有するユーティリティトークンを発行するなど、ファンマーケティングにも活用できます。
阿藤例えば、鉄道沿線の不動産や商業施設などに投資を行うことで、その使用権やサービスを受ける権利を得られたら、気軽に投資する人も増えると思います。また、好きなスポーツチームを投資という形で応援したりと、不動産など特定の分野以外の事業法人様も、個人と接点を持って、資金調達や支援の声を受けながら事業を拡大していくチャンスが増えていくのではないでしょうか。
中村「Progmat」は個人投資家の方にも多くのメリットをもたらします。今後は、高価なワインや絵画といった、それぞれ単体で上場させることがあり得ないようなものも投資対象となりうるわけです。そのため、格段に投資機会が多様化していくことが予想されます。そうなると自分自身が何に投資したいのか考えるきっかけになります。個人資産の半分が預貯金といわれているなかで、投資商品を多様化して投資機会を増やすことは、日本経済にも良い効果をもたらすでしょう。さらに私たちの今後のビジネス拡大という面でも、大きな成長の機会になると確信しています。
「Progmat」が生み出す新たな価値はどのようなものでしょう。
阿藤SDGsが注目されていることからも、今後、企業が社会課題に取り組むことは急務で、MUFGのグループ全体としても経営目標に掲げています。「Progmat」には、直接的な投資効果のほか、間接的な効果もあると期待されています。
中村例えば、地元の人に愛されているのに資金繰りが難しくて廃業を検討しているお店なども投資対象にできるわけですから、一人ひとりの投資は小さくても最終的に大きな力となります。地元ファンの皆さんからの応援によって、ますます魅力的な地域となり、街全体が豊かになっていく。そんなストーリーさえも描けるのではないでしょうか。
阿藤実は私も中村もFinTech(フィンテック)やデジタル分野の専門だったわけではありません。二人とも不動産業務を担当していたのですが、社内公募のジョブチャレンジ制度や異動によって「Progmat」のプロジェクトにかかわるようになりました。今は、業務の上流から下流までチーム内ですべて完結するという経験をとても貴重に感じています。
中村「Progmat」という可能性を得たおかげで、このプラットフォームを使って何かできないかという、若手社員のアイデアやチャレンジが新たに生まれやすい土壌が整備されたと思います。また、新しい仕組みを構築する過程で、法整備のために金融庁や財務局と連携したり、業界を横断して意見集約を図ったりしたのですが、これはスタートアップ企業ではなかなか難しいことだと思います。これまでMUTBが、幅広い信託業務を通して築いてきた接点と信頼関係があってこそ実現できた新事業なので、この環境の強みを存分に活かし、今後もプロジェクトを発展させていきたいです。